多摩の人と歴史


平成9年5月18日

 

平成9年5月18日()、小野路の農兵隊屯所跡地において、天然理心流剣七世瀧上鐡生氏 率いる同流門下生らによる試斬会が行われた。出版社の撮影要請に応えて催されたもので、門下生約20名がおのおの愛用の真剣や模擬刀、木刀を手に集まった。

試斬会では、師範の瀧上氏の気合号令で、真剣を使える中堅の剣士が、藁筵の束を次々に斬り刻んでいった。彼らは、「草攻剣」、「三攻撃破」、「実戦剣」など、天然理心流の剣技から発展し、京都新選組時代に永倉新八、斎藤一ら使い手によって熟成された、より実戦的な「新選組の剣」を中心に、天然理心流本来の形や組太刀を披露した。 練馬区に住む宗家瀧上氏は、全国に120名現存する同流門下生を指導する総師範として、稽古に出かけ、若い世代への同流継承をライフワークとされている。門下生は、新選組ファンが多く、20代〜30代の男女が揃いの稽古着で、古式ゆかしく木刀を打ち振るっている。近年入門希望者が増加しており、若い女性が半数を占めるほどになっているとの事。東京の場合、新宿区スポーツセンターで月2回稽古が行われており、今後は調布市の市民体育館でも開催される予定。現在、天然理心流本部は小島資料館におかれており、瀧上師範の稽古は東京中心だが、ほかに大阪や会津、仙台にも支部が置かれている。

中堅の門下生で、瀧上師範との組み技を披露した小林幸弘氏(30)は、演劇関係の仕事の傍ら積極的に稽古を積んでおり、師範の信頼も厚い。「幼い頃から武道が好きで、かつては空手、中国拳法などをやっていました。新選組のファンだったので、是非天然理心流の剣をマスターしたいと思い、5年前に入門しました。この真剣も自前です。時々、手を切りますけどね。」と、目を輝かせて笑った。

刀の柄に手をかけ、気合を入れる瀧上氏

瀧上氏は、天然理心流始祖の近藤内蔵之助から数えて七代目の宗家である。第四代近藤勇の養子、勇五郎が維新後、五代宗家を継いだが、伝書や剣技を正確に継承したか否かは疑問視されている。その勇五郎の弟子に、桜井金八、内藤忠政という人がいた。彼らはそれぞれ分離独立し、桜井氏は勇五郎の倅、近藤新吉に剣技を継承し、その後、現在三鷹市に在住の加藤伊助氏が第八代を名乗っている。一方の内藤氏は、明治の世を生きた元新選組隊士の永倉や斎藤を訪ねて「新選組の剣」伝授を請い、天然理心流の奥義も彼らから引き出す事に成功している。幼少の頃、柳生真影流免許皆伝の叔父から剣術を教わっていた瀧上氏は、第二次大戦終戦直後に多感な大学生生活を送り、進駐軍の目をはばかる事もなく真剣での剣術稽古を続けていたという。GHQによる伝統武術解禁後、内藤氏から天然理心流の免許皆伝を授かり、警視庁の警官として勤務する傍ら剣の技を磨いた。その後剣七世を継承し、高度成長期には新宿のダンスホールの音響技師を務めていた役得を活用し、ダンスホールで門下生に稽古をつけ、流派の存続と発展に努めてきた。60代半ばを超えた現在でも、剣術に対する真摯な態度は深まる一方である。多摩の剣、新選組の剣の次世代継承は彼の双肩にかかっていることは間違いない。

瀧上氏の信頼厚い小林氏


「トップページに戻る」 「マップページに戻る」
三浦正人 e-mail : miura@tamahito.com